僕のわがままをきいてもらうような格好だったけど、今日のライブをもって大好きな僕らのバンドへの参加をおしまいにすることにしました。ライブが終わったすぐあと、仕事の用事でどうしても一度駅までいかなきゃならなくてライブハウスを出て、はや足で駅に向かったのだけど、なんてことのない普段の街がまるでお祭りの帰り道みたいに見えて、ちょっと困りました。さみしいな、と思う気持ち。がんばろう、と思う気持ち。ポッケの中でぐっとこぶしをつくってみると、そのふたつの気持ちがふわっと湧きました。風が夏で。

帰り道、下北沢。とってもとっても大切な人と暮らしていた家の辺りに行ってみようと思いました。その頃のアパートはもう取り壊されて無くなっているのは知っていたのだけど、思い切ってその跡をじっくりと眺めてみようと思いました。あの頃のいつもの道を通ると、そこにはあれからずいぶん時間が経過してしまっていることを考えないわけにはいきませんでした。あの頃の僕と、今の僕。家のとなりには、毎日出掛ける時と帰ってきた時、おじぎをして通った神社があって、そこには僕がその頃積み重ねた毎日の気持ちのとなりに、大切な人が積み重ねた気持ちもたくさんしまってあるんだな、と思ったらその人がそこに居るみたいですごく居心地がよくて。境内に座って考えていました。あの頃の僕と、今の僕。あの頃僕が考えていたことと、今僕が考えていること。大切な人と一緒にできたたくさんのことと、守れなかった約束。僕だけが傷付いて済むならそうであってほしいけど、そんなふうに上手くはできていません。つらいのは僕だけじゃなくて、守れなかった約束を、僕の大切な人もきっと黙って背負って生きていきます。僕もこれからずうっとそれを、背負って生きていくのだと思います。


大切な過去から抜けだせなくてうまく進めない人はきっとたくさんいます。でもね僕は思うんです。過去は捨てないと新しく前に進めない、なんていうわけじゃなくて、大切な過去は大切な過去のまま、かかえて前に進んでいいんだよなと思います。

もうすぐ2年になってしまうけれどずっと1人で過ごしてみて、今では僕はこう思います。「思い出すのがつらい」といっていたのはほんとは「思い出すのがつらいくらいに幸せな日々だったんだ」っていうことなんだというふうに。思い出すのがつらいくらい大切な過去をもし忘れてしまうというなら、別に傷ついたってかまわないからずっと大事にしてとっておきたいです。きっと大切な過去の景色も大切な人の思い出も、僕のこころの中でちゃんと「大切な気持ち」に形をかえて、迷った時には僕を僕にとってただしい方へつれてってくれる支えのようになるのだと思います。
帰る前にもう一度神社におじぎをして、階段をおりて外にでました。あの頃のいつもの階段、いつもの道。僕は勢いをつけてバイクのエンジンをかけました。さみしいな、と思う気持ちと、がんばろう、と思う気持ち。ポッケの中でこっそりこぶしをつくると、きっといつでもふたつの気持ちがふわっと湧いてきます。
やっぱり今日の街は、お祭りの帰り道みたいに見えました。